アンフェールフロアの壁面一角では、今年4月にグラフィック社より刊行された『マッチ・ラベル 1950s-70s グラフィックス』出版記念のマッチ箱展を開催中です。
兵庫県神戸市の地場産業として、高度成長期には日本全国あらゆる業種で作られたマッチ。ふとした折に胸の内ポケットから取り出される、お店の屋号や看板メニュー、外観や内装の意匠、土地の歴史や風物を反映したデザインを施された、小平型や寸二、寸四型など種々のサイズの小さな箱。喫茶店やレストラン、ボウリング場やタクシーなど喫煙可能な場所が今よりも格段に多く、インターネット到来以前でもあった当時、実用品として持ち歩かれる電話番号を印字したオリジナルのマッチは、お店や企業にとって最も効果的な広告、宣伝媒体として機能していました。
本書は、そんな時代の空気を詰め込んだ文化遺産としてのマッチとそのデザインを、業種やカラー、モチーフ別に紹介するカタログのようなビジュアル・ブック。現在は閉店してしまったお店や、時代の変化により衰退した産業、技術革新により変化し失われてしまった習慣や懐かしい文化を思い起こさせるメディアとしてのマッチ箱と出会うことの楽しみを伝えます。何より、店ごとの個性やこだわりがイラストやデザインの意匠として凝縮された手のひらサイズの箱は、小さきものを愛でる感性を心地よく刺激してくれます。
開催中のマッチ箱展では、本書の著者、小野隆弘さんが実際に蒐集してきたコレクションから、モノトーン、ブルー、グリーン、ピンクやイエローなどカラー別に集められたマッチを収めた木枠のクリアパネルを展示しています。色別に集められたページは書籍にもありますが、実際にひと所にまとめられたマッチ箱とそのバリエーション豊かな意匠の数々の実物がご覧いただけるのは非常に貴重な機会。また、京都のお店やホテルのマッチだけを集めたパネルも今回あわせて送っていただきました。かつてこの街に存在した喫茶やグリル、ベーカリーなどのマッチには、長くこの街に暮らす人には馴染みぶかく懐かしいものもきっと含まれていることでしょう。ぜひじっくりご覧になってみてください。
神戸に生まれ、小学生の頃よりマッチ箱のイラストに魅せられ蒐集をはじめたという著者の小野さんは、マッチ箱・マッチラベル・関連資料を常設する私設の博物館「たるみ燐寸博物館」を2015年より営む、生粋のマッチ愛好家。その継続的な蒐集の履歴を一冊にまとめた本書と本展示は、移り変わりゆく街の記憶を残す小さな文化遺産としてのマッチの魅力と、蒐集することの楽しみ(そして、管理・保存することの大変さ…)をあらためて感じさせてくれます。ぜひ書籍を手に取って、「あの頃」の街とお店と人々の空気に触れてみてください。
当店の店頭・オンラインショップにて書籍をご購入のお客様には、先着特典としてマッチをプレゼント。かつて広告として機能していたマッチのスタイルを踏襲するように、本書と「たるみ燐寸博物館」を宣伝するオリジナルの特典です。この機会にぜひお求めください。
『マッチ・ラベル 1950s-70s グラフィックス』(グラフィック社)
刊行記念 マッチ箱展
2019年6月15日 – 6月30日
恵文社一乗寺店 ギャラリーアンフェール 壁面一角にて
(テキスト:涌上 / 撮影:韓)